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睡眠時無呼吸症候群(SAS)に関するQ&A

必ずしも全ての患者様に適切であるとは限りませんが、よくいただく質問に関する一般的な回答です(SIGNによるガイドラインを参考にしていますが、SIGNによるものではありません)。

SASの診断や検査はどのように行われるのですか?
どの医療でも最も必要なのは問診と身体所見です。SASの場合でも同様であり、終夜睡眠ポリグラフィや無呼吸モニター、パルスオキシメーターといった睡眠検査が最も重要ではありません。大阪回生病院では問診や身体所見からSASが強く疑われる場合には、SIGNのガイドラインと同様に無呼吸モニターを第一選択としています。無呼吸モニターは終夜睡眠ポリグラフ検査に比べて医療費および患者様の自己負担が少なくて済み、また、終夜睡眠ポリグラフィより早期に検査ができるのが大きなメリットです。英国では在宅での検査が中心となるようですが、日本では様々な事情で難しく入院による検査を施行しています。こうした無呼吸モニターには解析ソフトがありますが、コンピューターによる自動解析は問題が大きいことが指摘されています。このため、熟練した技師あるいは医師による解析を行っています。

SAS以外の睡眠関連疾患が考えられる場合など無呼吸モニターでの検査では不十分と考えられる場合には、終夜睡眠ポリグラフ検査を施行しています。大阪回生病院ではattended PSGといって終夜睡眠ポリグラフ検査は検査2-3名につき検査技師1名が終夜にわたってモニターをしています。このattended PSGには多くの労力を要するために、検査まで非常に長期間の待機を必要としています。しかしながら、無呼吸モニターでは、睡眠中の無呼吸など呼吸異常以外の睡眠の質が不明であるといったデメリットがあります。無呼吸モニターで異常がなくても他の睡眠関連疾患が疑われる場合には、ほとんどそういったことはありませんが、再度、終夜睡眠ポリグラフィを受けていただかなくてはなりません。
治療の方法はどのように決定するのですか?
SIGNのガイドラインで示されているように、どのような場合にも体重の減量やアルコール量を減らすことなどは重要です。しかしながら、重症の人の場合にはこうした生活面の改善のみで治療はできません。また、SASの場合、現在、効果のあることがはっきりした薬剤はありません。

治療の第一選択は現在CPAPです。問題点としては、わが国の健康保険制度では毎月医療機関の受診が必要であること。毎月4500円の自己負担がかかることがあります。CPAPが有効となるためには、毎日4時間以上の使用が必要とされていますが、努力は必要ですが努力していただいても全ての人が4時間以上使用できるわけでもないのも問題です。しかしながら、眠気や高血圧などの合併症のために長期にわたって有効で副作用のほとんどない治療はCPAPによるものしかありません。
CPAPは購入できないのですか?
健康保険での購入は認められていません。自費で購入することも可能ですが、10-35万円と非常に高額です。ホースやマスクも非常に高額で、年に2回、マスクとホースを替えるとすると、さらに1年間に約4.5-7万円程度の費用が必要となります。固定圧のCPAPであれば、それほど故障などはありませんが、メーカーの保障期間を過ぎればその際の費用も自己負担となります。
CPAPはずっと使用しなければならないのでしょうか?
CPAPを数ヶ月使用しているとSASが治療できて使用せずにすむと考えられている患者様もかなりいます。残念ながら、CPAPは根本的にSASを治療する装置ではありません。睡眠中の上気道の閉塞を空気による陽圧をかけることによって改善させるだけの装置です。

体重を減量することにより、SASを改善させることは可能ですが、10%体重を減量しても約20%程度しか無呼吸・低呼吸の回数は減少しません。このため、100kgの方で1時間あたり50回、無呼吸・低呼吸が生じていれば、10kg体重を減量し維持されても、なおも1時間あたり40回の無呼吸・低呼吸が残ります。このため、多くの重症のSASの方では体重を減量されてもCPAPを中止することができないのです。

肥満の方の減量は他の生活習慣病のためにも重要です。CPAPを中止できないからといって、減量をあきらめないでください。
手術による治療はどうですか?
手術は第一選択としては考えられていません。一般的にはUPPPという治療が行われていますが、手術の長期的な有効率は50%にもならないと考えられています。手術後1週間程度は疼痛が激しく、SASが悪化する場合もあります。手術が有効であるかどうかを決定するためには、上気道の閉塞がどこで生じているかを決定する必要がありますが、その決定をするのは非常に困難です。MRIなどで閉塞と思われる箇所もわずかな時間だけの観察であり、手術による閉塞が除かれても、また、別の場所の閉塞が生じる可能性があります。確かに手術が有効であれば、CPAPの継続使用などがないというメリットは大きいのですが、こうした問題があるためにあまり欧米では施行されなくなっています。ただし、これは成人の場合であり小児の場合では口蓋扁桃腺の摘出やアデノイドの切除は第一選択です。また、成人の場合でも口蓋扁桃腺が大きい方では、口蓋扁桃腺の摘出がSASの改善につながることもあります。レーザーなど最近の新しい技術を利用した手術方法でも同様です。

手術は、原則として他の治療方法による治療が困難であり、いびきのみや軽症のSASの患者様のみに適応される方法であると考えています。
CPAPの代わりに口腔内装置(SAS治療用のスプリント)による治療ではだめですか?
2004年4月より、SASの治療として健康保険の適応となりました。スプリントはCPAPに比べて簡便で持ち運びするのに非常に便利です。 スプリントが有効であるという論文は確かにありますが、CPAPではほぼ睡眠中の無呼吸や低呼吸が1時間あたり5-10回以下であるのに対し、スプリントでは論文によって違いますが、有効とする基準がCPAPに比べかなり甘い基準である場合が多いので、現在のところ、CPAPと同じように有効と考えて良いとは考えられていません。

CPAPとスプリントの有効性や効果を比較した最近の報告では効果やコンプライアンスの結果からはCPAPの方がスプリントよりも良いとされています。また、スプリントでは長期の有効性の評価や副作用に関する大規模な報告がないのも大きな問題です。

このため、SIGNのSASのガイドラインでは原則、眠気のない軽症の場合の治療とされています。米国睡眠医学会のrecommendationでも中等症以上のSASではCPAPがまずは選択されるべきだとされています。中等症以上のSASの方では、スプリントはCPAPが使用できない際の代替治療と考えられた方が良いと思います。

確かに重症のOSAHSの患者様でもマウスピースが非常に有効である場合もあります。一般的には肥満が少なく、下顎が小さく後退気味であるSASの方で、仰臥位に比べて側臥位になるといびきや睡眠中の無呼吸などが改善傾向である場合には有効であることが多いと考えられています。