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Scottish Intercollegiate Guidelines Network(SIGN)による成人における睡眠時無呼吸症候群(SAS)のガイドライン

他の疾患についても同様のことが言えるのですが、閉塞型睡眠時無呼吸/低呼吸症候群※1の診断や治療では医療機関や診療を担当する医師の専門分野や考え方により、その診断や検査、治療などに対しての考え方が異なります。このため、医師独自の診断や治療の方針ではなく、多くの論文などからの系統的レビューに基づいた医療という考え方が提案されるようになっています。これをEBM(根拠に基づいた医学)と言います。診断や治療の指針であるガイドラインは、権威ある医師によるものよりもEBMに基づいたガイドラインがbetterとされています。

SIGNのガイドラインはEBMを重視したガイドラインです。ガイドラインによる医療が果たしてベストかどうか、SIGNによるガイドラインが日本でも適切と言えるのかどうかはまだ分かりませんが、このガイドラインによるSASの診療は大阪回生病院でこれまで行ってきた診断や治療方針とはほぼ一致しています。

少し専門的なものになりますが、SASの診断や治療を受ける際のお役にたてるのではないかと思い紹介させていただきました。 なお、翻訳上の誤りなどがあるかもしれません。下記の原文をご参照くださいますようお願い申し上げます。また、原文ではその詳細についても公開されています。

※1
一般的には睡眠時無呼吸症候群やSAS(Sleep Apnea Syndrome)という用語の方が良く使用されます。しかしながら、医学用語としては、呼吸の停止する無呼吸とそれに近い低呼吸はほとんど病的な意義は同じだと考えられることから、最近は睡眠時無呼吸/低呼吸症候群という用語が用いられるようになっています。

Scottish Intercllegiate Guidelines Network(英国胸部疾患学会推奨) 成人の閉塞型睡眠時無呼吸/低呼吸症候群のマネージメント Quick Reference Guide

支持する証拠の強さにより推奨をA,B,C,Dと分類していて、赤字で示しています。Aが最も証拠があり、Dが最も証拠に乏しいものです。


定義と臨床的背景

無呼吸
10秒以上の呼吸停止
低呼吸
10秒以上の睡眠時の安定した呼吸より50%以上の低下
閉塞性睡眠時無呼吸・低呼吸症候群(OSAHS)
過度の昼間の眠気と夜間の不規則呼吸の存在
無呼吸低呼吸指数(AHI)
1時間あたりの無呼吸・低呼吸の数(OSAHSの重症度評価のために使用)

罹患者が入眠すると上咽頭の筋活動が低下し、上気道の狭小化が起こる。この上気道の狭小化に打ち勝つために吸気努力が増加し、一時的な深睡眠からの覚醒あるいは浅い睡眠相に変化し、正常の筋緊張と気道の口径が回復する。患者は再び深い睡眠に至り、全サイクルが繰り返される。夜間に数100回と起こり、正常睡眠構造の断片化と睡眠の質が低下し、眠れない、乱された、不満足な睡眠となる。


臨床的特徴

  • ・過度の昼間の眠気
  • ・集中力の低下
  • ・いびき

その他の症状

  • ・すっきりしない睡眠
  • ・睡眠中の閉塞感
  • ・無呼吸の指摘
  • ・眠れない
  • ・怒りやすく・人格変化
  • ・夜尿
  • ・性欲の低下

重症度

OSAHSは呼吸異常の程度、例えばAHIなどにより分けられる。

軽症 AHI 5-14/時間
中等症 AHI 15-30/時間
重症 AHI 30/時間以上


診断

C 睡眠時無呼吸の疑いのある患者とそのパートナーは治療前の眠気の程度の自覚的評価のためにEpworth質問票を受けるべきである。

  • ・重症OSAHSとCOPDの合併は潜在的に危険であるので臨床医は睡眠センターへの緊急紹介を考慮すべきである。
  • ・OSAHSと思われる症状があり、運転中に眠くなったり、機械を扱っていたり、危険な職業に従事している場合には換気不全と同様に睡眠センターへの緊急紹介を考慮すべきである。
  • ・いびきの手術を受ける患者ではOSAHSを除外しておくべきである。

身体所見

  • 検査所見自体ではOSAHSの正確な診断はできないが、患者の症状に関するほかの原因を除外するのに役立つ。身体所見をとる際に以下の点を含める。
  • ・体重と身長
  • ・首の周囲径
  • ・下顎の大きさ
  • ・鼻の開通性
  • ・上気道狭窄
  • ・口腔内(巨舌、歯の状態)
  • ・咽頭所見
  • ・血圧
  • ・呼吸器系、心血管系および神経学的検査

診断のための方法

  • OSAHSの診断のためにいろいろな方法がある。
  • 睡眠ポリグラフィ、簡易睡眠検査(無呼吸モニター)、パルスオキシメーターは有用と示されている。
  • フローヴォリュームループ、画像診断、質問紙票、鼻腔内視鏡は有用でない。

B OSAHSの診断的評価の方法として、呼吸イベントの評価のための簡易睡眠検査(無呼吸モニター)は当初の適切な検査である※2

  • 多くの患者は、睡眠時無呼吸の診断のために脳波による睡眠ステージ判定を含めた睡眠ポリグラフィは必ずしも必要がない。典型的な過度の昼間の眠気があるが、簡易睡眠検査で、客観的な閉塞性無呼吸がない患者は、地域の睡眠センターが利用できるようにすべきである。
  • パルスオキシメーターによる評価はOSAHSを除外できない。パルスオキシメーターは、OSAHSの初めの検査としての役割があるが、診断的、治療的決定を下すためにパルスオキシメーター測定を行う場合には十分限界をわきまえる必要がある※3
  • 現在の対照試験の結果、治療効果のある場合は症状のあるAHI≧15、あるいは4%desaturation index 10/時間以上である。

※2
ただし、簡易睡眠検査の評価には注意が必要です。付属の自動解析装置の信頼性に乏しいことはSIGNのガイドラインの本編だけでなく、米国睡眠医学会(AASM)のタスクフォースによる勧告などでも注意が促されています。簡易睡眠検査の結果の評価には自動解析を使用しても必ずraw dataを熟練した技術者により再チェックすることが必要となります。

※3
パルスオキシメーターの結果が正常であっても、治療の必要なOSAHSである可能性は否定できません。


行動的介入

C OSAHSに影響がある肥満のあるすべての患者に減量をすすめるべきである。減量を試みたとしてもほかの治療も開始すべきである。治療の中止の可能性もあるために、CPAPあるいは口腔内装置(SAS治療用のスプリント)の補助として減量をすすめるべきである。

  • ・喫煙している患者には禁煙をすすめる。
  • ・アルコール、精神安定剤、睡眠薬は使用しないように。
  • ・眠気のないいびきの人はあおむけに寝ないようにする。

非手術療法

CPAP

A CPAPは治療が必要な症状のある中—重症のOSAHSの患者の第一選択となる。

C 6ヶ月にわたり一晩2時間以下の持続的低CPAP使用の場合、患者の不快を改善する試みを行い、治療をみなおすべきである。

CPAP治療は以下の対策をせずに中止すべきでない。

  • ・訓練を受けたCPAP看護師あるいは検査技師の受診
  • ・問題に対し、CPAP圧調整の検査・autoCPAPの使用
  • ・加温・加湿器の使用
  • ・バイレベル型装置は通常のOSAHSには使用しないが、換気不全をともなう患者に使用する。

口腔内装置(SAS治療用のスプリント)

A 口腔内装置はいびきの患者や軽症の昼間の眠気のないOSAHS患者の適切な治療である。

B 口腔内装置はCPAPに耐えられない患者の適切な代替治療である。

D 口腔内装置を使用した場合には、OSAHSのコントロールと症状の評価、装具の調整のために治療開始後モニターすべきである。

薬物療法

A 薬物療法はOSAHS治療の初めの治療として用いるべきでない。

手術療法と麻酔

B UPPPあるいはLAUPはOSAHSの治療としてすすめられない。

  • ・OSAHSと診断され口蓋扁桃腺腫大のある患者は扁桃腺摘出術のために即座に耳鼻咽喉科に紹介すべきである(訳者注:直ちに手術するという意味ではないと思います)。
  • ・術中の麻酔により術後無呼吸は悪化する可能性がある。術前にCPAP治療されている患者は術直後より使用すべきである。
  • ・術後すべてのOSAHS患者はオキシメーター測定をおこなうべきであり、個々の症例により管理法を決める。

運転とQOL

無治療の睡眠時無呼吸は運転中危険なほどの眠気を引き起こし、事故の危険性が増加しうる。患者にOSAHSの疑い段階でも眠気を感じた時には運転してはならないと知らせ、運転中に眠ってしまうことは犯罪であり、有罪となる可能性がある。

睡眠時無呼吸に罹っていると診断された場合には自身で口頭および書面で診断を運転者車両免許局に通知すべきであると説明すべきである。この情報は主治医にも伝えなければならない。患者が効果的治療を受けていれば免許を保持することに問題はない。

診断後、患者は保険会社にも知らせなければならない。

DVLAによる勧告

Group 1免許(普通運転免許)
覚醒時に過度の眠気をきたす原因が続いていれば運転をやめなければならない。
Group 2免許(HGV, PSV)
覚醒時の過度の眠気をきたす原因が続いていれば運転をやめなければならない。症状が十分コントロールされており専門家の意見により確認されれば運転は許可される。

A 重症OSAHSの患者では運転能力の改善のためには、昼間の眠気が減少するようにCPAPが選択される。 無治療のOSAHSにより、眠気、事故に至る公衆衛生上の問題のために、OSAHSの眠気のある運転者、職業運転手はCPAP治療を第一選択とすべきである。

  • なお、SIGNによるガイドラインでは睡眠ポリグラフィにせよ、オキシメーターを含めた簡易検査にせよ、検査方法よりも、評価する者(医師および検査技師などcoworker)の睡眠検査の経験が重要であるとされています。
  • 医師およびcoworkerの教育は、現在のところ、徒弟制度とされ、呼吸器内科医師は3ヶ月、地域の睡眠センターの運営に関係するものは1年のセンターでの研修が必要とされ、睡眠センターは年間新規CPAP症例100例(3ヶ月で25例)以上診療する必要があるとされています。