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睡眠時無呼吸症候群の治療~適切な治療を見つけるために~

はじめに

睡眠をとることは単に日中の日常生活から離れることではありません。心や身体の疲れをとり気力や体カといったエネルギーを充足するために、欠くことのできない積極的な行動です。また、睡眠には病気を治したり、成長を促す効果もあることがわかってきています。

もし、十分な睡眠時間をとっているのに昼間に眠気があったり、起床時に倦怠感や頭痛があるならば、睡眠時無呼吸症候群の症状かもしれません。ここでは、睡眠時無呼吸症候群の概要と、一般的な治療法について説明しています。もし、睡眠時無呼吸症候群が疑われるなら、早期に専門医を受診し症状にあった治療を受けてください。


睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に何度も呼吸が止まった状態(無呼吸)が繰り返される病気です。いびきや不眠、夜間睡眠中に目が覚めたり(夜間の中途覚醒)、起床時の頭痛、日中の眠気などの症状があります。また、高血圧の他、不整脈などの循環器系の障害、呼吸器系の障害などの合併症を引き起こすこともあります。そのうえ、日中の眠気のため、居眠り運転による交通事故などを起こしやすく、治療をせずに放置しておくと、生命に危険が及ぶ場合もあります。
適切な検査とそれぞれの患者様に応じた治療が必要です。

睡眠時無呼吸の原因としくみ

睡眠時無呼吸は、多くの場合、空気の通り道である気道が、部分的あるいは完全に閉塞してしまうことにより起こります。そのため、睡眠時無呼吸は肥満体の人、首が短くて太い人、顎が小さい人などに多く、もともと気道が狭い構造になっている上に、睡眠中には、咽頭の筋肉や舌(これも大きな筋肉です)が緩みさらに気道が狭くなっておこってくるのです。そのような状態で息を吸うと、肺で生じた陰圧によって狭い気道は-層狭くなって閉じてしまいます。ストローの端を指でふさいで吸ってみてください。ストローはつぶれてしまいます。これと同じようなことが睡眠中の上気道でもおこり、睡眠中の無呼吸が発生します。


どのような検査が必要なのか?

睡眠時無呼吸症候群の原因や重症度を調べたり、治療方法や処方を決定するためには十分な検査が必要です。在宅で行える簡便な方法もありますが、一般的には一晩入院して、いろいろな電極やセンサーなどの検査端子を身体に取り付けて眠り、睡眠状態を調べるポリソムノグラフィー(PSG)という検査を行います。
ポリソムノグラフィーでは、脳波と心電図、胸部・腹部の動き、鼻からの空気の流れ、動脈中の酸素飽和度などを連続して記録し、翌日に医師が診断します。

治療すると、どのような利点があるのか?

睡眠時無呼吸症候群を治療すると、日中の眠気や倦怠感などの症状だけでなく、睡眠時無呼吸症候群による合併症を予防したり改善することが可能です。しかしながら、その治療法は、単に薬を服用するだけで治療できるものではありません。また、睡眠時無呼吸症候群の重症度や患者様の症状に応じた治療が必要になります。

ここでは、睡眠時無呼吸症侯群の治療法について説明してありますが、治療法の選択については主治医と十分にご相談してください。


治療の方法

生活習慣の是正

  • 生活習慣の中には睡眠時無呼吸症候群を悪くするものがあります。一部の人にとっては、生活習慣を変えるだけで、睡眠時の無呼吸が減ったり、あるいは無くなってしまうこともあります。

睡眠中の体位の工夫

仰向けで寝ると身体のすべての部分に下向きの重力が加わります。そのため、舌や咽頭の上側の筋肉や軟口蓋は、咽頭の下側と後側の壁にくっつこうとします。この状態では空気の通り道である気道は、狭くなるか完全にふさがってしまいます。したがって、そうならないように身体を横向きにしたまま寝るように工夫してみると症状が良くなることがあります。睡眠中の体位を保つためにいくつかの方法が考案されています。もっとも簡単なものにテニスボール法があります。


この方法は、パジャマの背中側の首下にポケットを縫い付けて、その中にテニスボールを入れます。睡眠中に寝返りをうちはじめると、背中のボールがあたって刺激となり、身体の向きを元に戻すという仕組みです。身体の向きが変わるとアラームが鳴ったり、振動する装置もあります。しかし、中等度から重症の睡眠時無呼吸症候群の患者様では、横向けに眠っても睡眠中の無呼吸は減らない場合が多く、体位を変える方法は有効ではありません。また、軽症の方でも効果がないこともありますので、主治医に相談しながら取り組んでください。


減量

一部の睡眠時無呼吸症候群の患者様には、減量が有効な治療になることがあります。食事のカロリーを減らし、運動量を増やします。食事では、脂質や糖質を控えましょう。また、間食や飲酒を減らし、規則的な食事を心がけましょう。しかし、睡眠時無呼吸症候群の患者様では、日中の眠気があるために運動量が減少し、実際には減量が難しいこともあります。体重のコントロールが困難なことも睡眠時無呼吸症侯群の症状の一つと考えられています。

いびきや睡眠中の無呼吸は、体重が増加して元に戻るとまた元の状態に戻ってしまいやすいので、減量ができても、その体重を維持することが大切です。体重を減らすための食事指導は病院の栄養士から受けられます。

禁煙

喫煙は、血中の酸素を低下させ、咽喉頭部の炎症をおこし、睡眠中の無呼吸に悪影響を与えます。肺ガンの予防など他の健康のためにも禁煙をおすすめします。

飲酒や精神安定剤の服用を控える

就寝前の少量のアルコールでも、いびきや睡眠中の無呼吸を悪化させることがあります。就寝前の少なくとも4時間は飲酒を避けることが必要です。アルコールや睡眠導入薬、抗不安薬、筋弛緩薬などの精神安定剤及び類縁薬剤は、普通の状態より、咽頭の筋肉を緩め、気道の閉塞を引き起こしやすくします。アルコールや精神安定剤は、脳の目覚めを悪くさせるために、身体に危険な長い無呼吸を増加させます。
しかし、こうした薬剤は服用が必要な場合もあります。一方、急に服用を中止することによって、その反動が出現することがありますので、服用を控える場合は、主治医にご相談ください。

経鼻的持続陽圧呼吸療法装置(nasal CPAP)

経鼻的持続陽圧呼吸療法装置 (nasal CPAP:nasal Continuous Postive Airway Pressure 以下CPAP(シーパップと略す)は、一定圧を加えた空気を、鼻から送り込む込むことによって、上気道の閉塞を取り除き、睡眠中の気道を確保する非常に有効な治療法です。ほとんど全ての睡眠時無呼吸症候群の患者様に有効で、多くの患者様への治療の第一選択とされています。

機器の概要

CPAPは、送風ファンによって、患者様の気道閉塞の程度に合せた空気圧をエアチューブ・鼻マスクを介して、鼻から気道へ送り込みます。ハンドバックぐらいの大きさで、重さは機種によって異なりますが約1~3㎏ですので、旅行の時などにも持ち運ぶことができます。


効果のしくみ

CPAPは常に上気道に陽圧をかけつづけることにより、軟口蓋や舌を押し上げて気道を広げ、無呼吸の発生を防ぎます。副作用はほとんどありませんが、のど・鼻の渇きや、マスクの締め付けすぎによる痛みが生じることがあります。

睡眠時無呼吸(閉塞型)

CPAP原理図


導入にあたって

多くの患者様は、CPAPを使用することによって快適な日常生活を過ごされていますが、空気圧による不快感や、鼻の乾燥、騒音などによって、継続使用が困難な患者様もいらっしやいます。しかし、はじめは不快でも徐々に慣れてきますし、以下のような工夫で不快感が解消できることも多いので、担当医と相談のうえ取り組んでください。

鼻マスクの選択
顔に合った鼻マスクの選択は、治療効果を上げるためにも、快適な睡眠をとるためにも重要です。鼻の形や大きさ、顔の形にフィットしたものを使用しましょう。
のどや鼻が渇く場合
加温加湿器を使用すると、快適に使用できることがあります。
圧が不快で寝付けない場合
鼻マスク装着後、目覚めている間は、空気の圧力が不快に感じられます。圧力を徐々に上げていくディレータイマー機能を使用することで、入眠しやくなります。
ディレータイマーは、最長20分程度まで、必要な圧力に達する時間を遅らせることができます。

お手入れの方法

日常のお手入れは、毎日使用した後に鼻マスクを湿らせた布で拭くこと、1~2週間に1度は鼻マスクやチューブを中性洗剤で洗うこと、3~6ケ月ごとにフィルターを交換することです。

健康保険の適用

CPAPの使用は健康保険の適用となってます。ただし、十分な検査を行い、基準を満たしていないと健康保険は適用されませんので、主治医にご相談ください。

手術による治療

子供の睡眠時無呼吸症候群の場合は、アデノイドや扁桃の肥大が原因であることが多く、手術が第一の選択になります。また、大人の場合でも、気道閉塞の原因がアデノイドや扁桃の肥大であると明らかな場合や、他の治療方法では、うまく治療できなかった時などは、耳鼻咽喉料医による手術が必要となることがあります。

口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)

最も一般的な手術は、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)です。この手術は、口蓋垂、口蓋扁桃、軟口蓋の一部を切除して、気道を広げる手術です。睡眠時無呼吸症候群の約50%の患者様で、有効と報告されています。手術を受けられた患者様の中には、手術による傷が治るまで、激しいのどの痛みがあったり、手術後に、鼻声になったり、水を飲み込むと鼻から逆流しやすくなることがあります。

レーザー手術

最近になり、いびきの治療として、レーザーによる口蓋垂軟口蓋咽頭形成術も行われるようになってきました。この治療は、口蓋垂や軟口蓋の一部をレーザーで切除する方法で、いびきを和らげ、痛みも少ない方法です。しかしながら、この治療は、いびきの音を和らげる治療であり、睡眠時無呼吸症候群に治療効果があると判断するのは早計です。その他、鼻中隔(鼻の内部)の手術などの方法があります。詳しくは、専門の耳鼻咽喉料医にご相談ください。また、手術を受ける場合のリスクと合併症について、よく説明を聞いてください。


歯科装具(スプリント)による治療

歯科装具は、睡眠中に装着し、舌や下あごを前方に固定することで舌の後方の気道スペースを広げ気道の閉塞を防ぎます。歯科装具は、2004年4月より歯科での健康保険適用となり、比較的安価で携帯に便利なため、利用される患者様が増えています。こうした歯科装具は、睡眠障害の専門医と連携をもつ経験豊富な歯科医師によって作成してもらうことが必要です。

下顎を固定するマウスピース

上下の歯の問に固定し、下あごを前方に引きだす装置です。いびきだけでお悩みの患者様や軽度から中等度までの睡眠時無呼吸症候群の患者様やCPAP使用の患者様にすすめられます。

舌の保持装具

舌を咽頭の奥に落ち込まないように防ぐ装置です。舌の痛みや不快感が強いため、あまり使用されていません。

健康保険の適用

2004年4月より、健康保険適用となりました。ただし、適応などがありますので主治医にご相談ください。当院では、歯科口腔外科や経験豊富な歯科医師と連携して歯科装具作成を行っています。

口腔内装置(SAS治療用のスプリント)による治療の説明はこちらをご覧ください。

薬剤や他の治療方法

鼻腔を広げるテープなどのグッズ、マウステープ

薬局や通信販売などで販売されているものです。睡眠中に軽いいびきがある方や、ごく軽度の無呼吸がある方には有効な場合もあるようですが、睡眠中に外れることも多いようです。どの程度まで、こうしたグッズで様子をみればよいかは、主治医にご相談ください。

鼻のスプレー

鼻のスプレーは、鼻づまりをとるために有効な方法ですが、その方法に依存的になることもありますので、使用にあたっては主治医や耳鼻咽喉科医にご相談ください。また、鼻腔内のポリープがある場合や、鼻の構造的に空気の通りが悪い人などには、効果がありません。

呼吸を刺激する薬剤のスプレー

黄体ホルモン剤(メドロキシプロゲステロン)や眼圧降下剤(アセタゾラミド)が軽度の睡眠時無呼吸症候群の治療薬剤として、使用される場合があります。しかし、こうした薬剤による治療は、中等度から重度の睡眠時無呼吸症候群には有効ではないと考えられています。

酸素療法

心臓や呼吸器に疾患のある患者様には、低酸素を改善するために、経鼻的持続陽圧呼吸療法装置(nasal CPAP)と酸素吸入療法が併用されます。その場合は、鼻マスクに直接、酸素チューブを接続します。


治療後のケア

  • 睡眠時無呼吸症候群のどのような治療方法を選択しても、自分で治療効果を判断するのは危険です。主治医と相談して、その有効性についてポリソムノグラフィー検査を受け、調べてもらうことが必要です。睡眠時無呼吸の重症度は、体重の増減や加齢にしたがって変化します。もし、いびきを再びかくようになり、日中に眠くなったなら、睡眠時無呼吸が悪くなった可能性があります。その際には、別の治療法を併用することが必要かもしれません。定期的に主治医の診察を受けることを忘れないようにしてください。