当科の治療方針について
耳鼻咽喉科の守備範囲は広く、難聴、めまい、中耳炎、副鼻腔炎や扁桃炎といった、日常多くみられる疾患のほか、甲状腺や唾液腺、顔面、頚部に発生した腫瘍に対する治療にもあたることが一般的となっています。
しかし、医療機器や顕微鏡、内視鏡の進歩に伴い、ひとりの医師がすべての疾患に対する治療方法を習得することは、かなり困難となってきております。
すなわち、耳鼻咽喉科の中でも、各分野、各疾患における専門化が進みつつあるため、それぞれの医師が得意分野を生かして種々の病気の治療にあたることにより、広範囲の疾病に対応することがはじめて可能となります。
それぞれの専門技術をもった医師が一施設に多く集まり、どのような患者さんにも対応できる、という状況が本来理想的ですが、医師の人数にも限りがあるため、常勤医師に加えて、専門技術を持った非常勤医師との協力体制をとりつつ、より多くの患者さんの診療に努めております。
そのために、当院での治療を進めるにあたって、必要に応じて、専門領域をもつ他院の医師へ、紹介させていただく場合もあります。
当科では、限られた人員と時間の中で、ひとりひとりの患者さんのニーズに応じた診療を心がけ、「ここを受診して良かった」と満足していただけるような医療を提供していきたいと考えております。
当科で行っている診療の特徴
睡眠時無呼吸症候群に対する手術治療
現在も多くの患者さんが当院睡眠医療センターを受診され、治療を受けておられます。
睡眠時無呼吸に対する治療方針の中で、最も広く行われているのがCPAP(経鼻持続陽圧呼吸)装置の使用です。
CPAPは、鼻にマスクを着用し、空気圧をかけて、のどの奥を広げ、呼吸の通りを改善する方法です。
理論的にも非常に有効な方法ですが、装用中に圧迫感や違和感が強く、うまく使えない方もおられます。
そのような患者さんの中には、口蓋扁桃(こうがいへんとう、いわゆる「へんとうせん」)が大きかったり、もともと、のどが狭かったりしていることがあります。
また、子供さんで、あお向けに寝ると息苦しくなるため、いつも横向きやうつぶせで寝ているような方の場合、口蓋扁桃のみならず、鼻の奥にある「アデノイド」という組織が大きいために、鼻でも口でも呼吸しづらい状態になっていることがあります。
おとなの方に対し、のどの奥を広げる手術を「軟口蓋形成手術(咽頭形成術)」といいます。
その場合、口蓋扁桃を取る手術も同時に行います。CPAPがうまく使えるかどうか、肥満があるかどうか、といったことを考慮しつつ、治療方法を考えていく必要がありますが、手術によって改善する可能性があると判断できる場合には、根本治療をめざすべきであると考え、取り組んでおります。
子供さんの場合には、手術によって劇的に呼吸が改善することが少なくないため、積極的に手術治療をお勧めしています。
アデノイドは一見して見えないところに位置しているため、内視鏡下に安全に手術を行います。
ただ、現在、当院には小児科がありませんので、手術が必要な場合には、他院へ紹介させていただくことがあります。
手術治療は全身麻酔で行いますが、重症の睡眠時無呼吸がみられる方や、高度の肥満がある方につきましては、麻酔からの覚醒時に呼吸状態が不安定になる場合があります。
そこで、あらかじめ、術前にしばらくの期間、CPAPを使用していただいた後に手術を行ったり、ダイエットを心がけていただいたりした後に手術を考慮する場合があります。
耳の病気に対する治療
耳疾患としましては、まず急性疾患として、突然聞こえが悪くなってしまう突発性難聴や音響外傷などの急性感音難聴、耳の奥にある内耳という部分の障がいに起因するメニエール病や良性発作性頭位眩暈症などの めまい疾患、顔の筋肉が動きにくくなる顔面神経麻痺などが挙げられます。
顔面神経は、脳から耳の中を通って顔の筋肉に分布しており、目や口など顔の筋肉を動かして顔の表情を作ったり、まばたきをしたり、そのほか味覚を感じるなどの働きをしています。
この顔面神経がウイルスや中耳炎、腫瘍などが原因で機能しなくなってしまうと顔を動かせなくなったり味覚障害を引き起こします。
上記疾患の治療に関しましては、患者様一人ひとりの症状や生活背景を丁寧に考慮したうえで、点滴や内服等適切な治療方針を立てていきます。
なかには手術治療の対象となる耳疾患もあり、耳だれや難聴などの症状を引き起こす慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎に対する鼓室形成術、伝音難聴や混合性難聴、耳小骨奇形に対する鼓室形成術(伝音再建術、アブミ骨手術)、顔面神経麻痺に対する顔面神経減荷術、メニエール病に対する内リンパ嚢開放術など、手術適応に応じて適切に手術治療を行ってまいります。
慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎は、炎症が続くと耳だれが出たり、骨が溶けたり、聞こえがさらに悪くなったりしていきます。
薬や耳の処置だけでは治らない場合は、手術で炎症や感染の原因を取り除いて耳だれを止めたり、これ以上聞こえが悪くなるのを防ぐ必要があります。
手術は、高性能顕微鏡を用い、病変の除去を行ったうえで可能な限り聞こえの仕組みを修復して聴力改善処置を目指していきます。
聴力改善には、自家骨や軟骨、人工耳小骨を用いて鼓膜から内耳までを繋ぎ、音の振動が内耳の神経に伝わるような方法をとります。
当院では、耳の手術を受けられる患者様が安心して治療に臨める環境づくりを大切にしており、丁寧な説明と安全を最優先にした医療を心がけています。
その他の耳疾患としまして、加齢性難聴や耳鳴、外耳炎、先天性耳瘻孔、耳管狭窄症、耳管開放症、滲出性中耳炎なども取り扱っております。
加齢性難聴や治療で改善不可能な難聴疾患に対しましては、補聴器の装用を検討して頂くこととなります。
補聴器装用に際しましては、認定補聴器技能者が在籍する認定補聴器専門店と連携し、補聴器の試聴からフィッティング(調整)まで行ってまいります。
また、高度難聴の方には身体障がい者診断書および補装具費支給に関する意見書の作成も行っております。
耳の疾患によっては、症状が軽く感じられても早期に治療が必要なものや、放置することでだんだん悪化していく場合があります。
耳の症状でお悩みの方は我慢せず、どうぞお気軽にご相談ください。
鼻、副鼻腔に対する手術治療
鼻汁、くしゃみ、鼻づまり、嗅覚障害、といった症状が代表的なもので、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が原因であることが多くみられます。
アレルギー性鼻炎を完全に治す治療方法はいまだにありませんが、原因となる成分を吸い込まないようにする工夫や、薬を適切に使うことにより、症状改善をめざすことが可能です。
アレルギー性鼻炎が悪化すると、顔の骨の中にある空洞(副鼻腔)への空気の出入りがうまくいかず、副鼻腔炎を起こして、頭痛の原因となることもあります。
副鼻腔炎は、薬で治りにくい場合には、内視鏡手術の適応となる場合もすくなくありません。
従来、副鼻腔炎の手術については、「歯茎のところから骨を削って行われる、痛い手術」というイメージがありましたが、現在は、鼻の穴からすべての操作を行う、内視鏡手術が主流となっております。
鼻の通りを改善するために、粘膜に熱を加えて腫れを改善するレーザー手術も、この術式に含まれます。
どのような手術方法が適切であるのかは、診察を受けていただき、CT検査を行った後に、それぞれの患者さんに説明の上、決定させていただきます。
のどの病気に対する治療
のどの強い痛みや発熱は、扁桃炎によって引き起こされていることがしばしばあります。
口蓋扁桃への細菌感染が原因ですが、とくに扁桃が大きくなくとも、炎症を起こすことがあります。
抗生剤での治療を行ってもしばしば扁桃炎を繰り返すようであれば、手術治療の適応となります。
また、声がかすれる、という症状では、のどの奥の「声帯」の異常がみられることが多いです。
声帯が腫れている場合、良性のものは「ポリープ」といいますが、悪性のものは「癌」という診断になります。
ポリープは手術で改善をめざすことが可能ですが、癌に対しては、多くの場合、放射線治療や化学療法が必要となります。
放射線治療の適応がある場合は、治療可能な施設への紹介を行います。
口蓋扁桃の手術治療については、術後に痛みが強い場合があり、食事が摂りにくくなるために、一般には、入院期間が1週間以上必要となることも少なくありません。
しかし、もともと、口蓋扁桃は「被膜」という膜におおわれており、その膜に沿ってていねいにはがしていけば、術後の傷があまり深くならずにすみます。
また、止血を行う際、電気メスで血管を焼く、という処置が多く行われておりますが、焼いたあとの傷が痛みや出血の原因となることも考えられるため、当科では、極力電気メスを使用せず、細い糸で結んで(結紮)止血します。これらの慎重な操作により、できるだけ短期間で退院していただけるよう、心がけております。
頚部腫瘍に対する手術治療
頚部には、甲状腺、唾液腺、リンパ節などの組織があり、首の腫れ、痛みといった症状で受診される方も多くおられます。
一時的な炎症によって腫れがみられることもありますが、痛みを伴わずにしこりや腫れに気付いたりされたときには、腫瘍(できもの)である可能性が考えられます。
良性の場合も悪性の場合もありえますが、何が原因であるのかを、まず調べます。
頚部超音波検査やCT、MRI、細胞診(注射針で組織を一部取り出して調べる検査)などの検査を行い、必要な治療方法を考えていきます。
基本的に、手術治療によって完治をめざすことが可能であると考えられる場合、当院では積極的に手術治療を予定させていただきます。
しかし、放射線治療や血管、神経の再建などが必要で、当院での治療が困難であると判断した場合には、適切な施設への紹介も考慮させていただきます。
一般に、耳下腺腫瘍の手術の場合には、耳下腺の中に存在する「顔面神経」の麻痺を生じないようにしつつ、腫瘍や耳下腺組織を取り除く必要があります。
当科では、神経刺激モニター装置(Nerve Integrity Monitor, NIM)を導入し、耳下腺の深い部分(深葉)に存在する腫瘍に対しても、顔面神経の走行を明らかにし、より安全に摘出することを心がけております。
甲状腺腫瘍では、悪性腫瘍であっても、多くの場合、手術治療が第一選択となりますが、その際、声を出すための神経(反回神経)を傷つけないように注意することが必要です。
そのため、あらゆる状況において、反回神経を温存するよう努めております。
またカルシウムを調節するための「副甲状腺ホルモン」を作り出す組織である、上皮小体(副甲状腺)を極力温存する必要があります。
上皮小体は全部で4つあり、甲状腺に接していて、脂肪と同じ色調をしているために見分けがつきにくく、特に甲状腺を全摘出する手術においては、甲状腺とともに全ての上皮小体を摘出してしまった場合、術後に高度の低カルシウム血症を引き起こすことがしばしばあります。
当科では、甲状腺の全摘出を行う際にも、まず上皮小体を確認し、甲状腺から分離して、その働きが落ちないように温存する術式をとっています。
以上のように、頚部の手術を行う際に起こりうる合併症につきましては、最大限の注意をはらって回避すべく努めております。