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CPAP(在宅持続陽圧呼吸療法装置)をうまく使うために

はじめに

nCPAPは日中の著しい眠気のある重症の睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、あまり支障もなく使用することが可能となり、劇的な効果が出現する場合は少なくありません。一方、眠気の少ない方や鼻閉の著しい方などでは、たとえ重症の方でも、その使用が困難な場合も少なくありません。しかしながら、重症の睡眠時無呼吸症候群は高血圧や虚血性心疾患の危険因子ともなり、下記のような工夫や医療機関での対応によって、これまで使用できなかったnCPAPがうまく使えるようになることも少なくありません。

適切なマスクの選択

nCPAPを使用するために、まず必要なのは適切なマスクを選択することです。欧米ではマスクと機器が別個に販売されていますが、日本ではマスクは CPAP機器を取り扱う会社によって、使用できるものが限定されてしまいます。このため、最も適したマスクを選択すると使用できるCPAP機器がきまってしまいますし、たとえば出張先でも使用できるようにと、最軽量のCPAP機器を選択すると使用できるマスクの範囲が決まってしまいます。また、マスクには一長一短があり、複数のマスクを交互に使用する場合もあります。

マスクの種類について

マスクには大きく分けて、通常の鼻マスクタイプと鼻孔タイプ、フェイスタイプのマスクがあります。  鼻マスクタイプは、シリコン製のクッションで鼻を覆うタイプのマスクで、最も一般的なマスクです。ヘッドギアを頭部にしっかりかぶることができますので、安定性には優れますが、マスクリーク(空気漏れ)を気にするあまりヘッドギアをきつく締めすぎると、鼻根部に跡が残ってしまったり、鼻の周囲に皮膚炎を起こしてしまう可能性があります。  鼻孔タイプは、シリコン製の鼻ピローを鼻腔に直接差し込むタイプのマスクですが、最近、複数のメーカーから供給されるようになってきました。鼻マスクタイプのマスクと比較すると、若干寝返り時に外れやすいという欠点がありましたが、ヘッドギア部の改良が重ねられ、安定性の増した製品も発売されています。鼻腔に直接差し込みますので、皮膚に跡が残ってしまうことはありませんが、継続使用すると鼻腔粘膜に炎症を起こす場合がありますので注意が必要です。好きな人は好きなマスクですが、嫌いな方も多いマスクです。  フェイスマスクは通常はnCPAPの患者さんでは使用しませんが、口もれがひどい場合に使用します。ただし、口もれが軽度の場合には、鼻マスクに口漏れ防止用のテープを口に張るほうが使用時間は長いと思われます。以前はマスクの固定が不安定でしたが、最近は5点固定となり、装着時の安定感は増しています。  こうした各種マスクの特性を理解した上で、寝返りの多い患者さんには安定性に優れた外れにくいマスク、皮膚の弱い患者さんにはピロータイプのマスク、体の不自由な患者さんには着脱の容易なマスクと最も適したマスクを選択し、いくつかのマスクを試用し、まず低い圧でCPAPを試していただくことがCPAP 使用の最初の第一歩となります。

鼻マスクタイプとピロータイプの一例

機器の選定

CPAP機器には従来から使用されている固定圧型のほかに、いびき、無呼吸の消失する圧を自動的に設定するauto-CPAPがあり、auto-CPAP では、漏れ、使用時間、使用時のAHI(1時間あたりの睡眠時無呼吸低呼吸回数)などが記録されるようになっています。また、機器により、こうした記録は機器本体に記録されるものと、カードに記録される機器があります。呼気時の呼吸困難を訴える場合には、吸気圧、呼気圧を設定するbilevel positive airpressure(bilevel PAP)や吸気時の流量により呼気圧を数cmH2O程度低下させるC-flex型があり、より楽にnCPAPを使用できることもあります。


適切な圧の設定

適切なマスクを選択し、nCPAPに10分程度慣れてもらい、終夜睡眠ポリグラフィ下で、睡眠中の無呼吸、低呼吸、覚醒反応がどの睡眠段階でも仰臥位でも消失する圧を調節し、適正圧を決定します。こうした適正圧の設定は睡眠の専門医療機関で行われます。この適正圧を基に固定圧では処方圧が、auto- CPAPでは最高圧が決定されます。Auto-CPAPの推測圧を処方圧とされる場合もありますが、機器のデータから推測される圧は必ずしも適切な圧とはならず、終夜睡眠ポリグラフィにより、適正圧の設定や睡眠の評価を行うことが、継続してnCPAPを使用するためには重要となることは少なくありません。

auto-CPAP

auto-CPAPは、機器に内蔵されたコンピュータにより上気道の開存性を推定し、上気道の開存に必要な圧を自動的に調節する機能をもつCPAPです。固定圧のCPAPでは、必要とする最も高い圧(通常、レム睡眠時の仰臥位)に設定するのに対し、auto-CPAPでは側臥位などではそれより少ない圧でも可能となり、使用しやすくなる場合もあります。ただ、auto-CPAPの機器のコンピューターのアルゴリズムは各社によって異なっていて、場合によっては機器のデータから推測されている圧が適切でない場合もあり、auto-CPAPにより推定される圧が適切かどうかは終夜睡眠ポリグラフィにより再確認することが望まれます。また、auto-CPAPには、鼻閉が急に生じると十分に作動しなかったり、口もれがあったり、耳鼻咽喉科手術後のいびきが減弱した際に有効に作動しない場合などがありますが、これらは機器によっても異なってきます。

CRAP使用中のトラブル

マスクに起因するトラブル

検査入院時のフィッティングではマスクの調整がうまくいっていても、マスクを洗った際などにうまく合わなくなってしまうことがしばしば起こります。例えば、ベッドギアのベルトの締め具合や額アームの角度が変わってしまい、マスクの跡が残ってしまったり、または部品がきちんとはまっていないため、空気漏れの音が大きくなったりといったトラブルがそうです。そういった場合には、再度、マスクのフィッティングを行う必要がありますが、もし自分で調節が困難な場合は、事前に最適な調節位置に油性ペンで印をつけておいたり、刺繍を施しておくのも1つの方法です。

開口によるリーク

nCPAPを使用する場合、鼻から圧力を加えても口が開いているとリークが生じてしまい、効果が得られません。鼻呼吸する必要がありますが、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの場合、普段から口呼吸をされている場合が多いので、「鼻呼吸を心がけるように」と指示を出しても困難な場合が少なくありません。多少の口からのリークならCPAPが補正をしてくれますが、開口が著しくリーク量が多い場合には、のどの渇きがひどくなったり、auto-CPAPを使用する場合には正常に作動しなくなるおそれがあるため、リークを減らす努力が必要です。 具体的には、下あごを持ち上げて固定するチンストラップを併用したり、口に細く切ったテープを貼ったりして、口が開かないようにするのが良いです。ただ鼻づまりが非常に強い場合など、どうしても鼻呼吸が困難な場合もあります。そういった場合には鼻と口の両方を覆うフェイスマスクを利用すれば解決する場合もありますが、フェイスマスクの場合、皮膚との接触面積が大きくなりますので、マスクリークが生じやすくなり、長期の治療成績は悪いことが多く、なるべく鼻マスクを利用することが望まれます。

加温加湿器の併用

特に花粉症の時期や空気の乾燥する冬季には、鼻づまりや鼻やのどの痛みを覚えることがあります。そういった場合は専用の加温加湿器を併用すると効果的です。ただ、暖かい空気がホース内を通りますので、室温が低いと温度差により結露が生じやすくなります。結露が激しいと、結露した水滴のために、目が覚めてしまったり、場合によってはCPAPが正常に作動しなくなる恐れがあります。対処方法としては加温加湿器の設定温度を下げたり、ホースを保温するために布団の中にホースを入れるなどの方法があります。室温が低い場合にはそれでも結露が生じるため、気になるようなら寝室温度を上げて下さい。なお、レジオネラ菌などの感染を防ぐため、加温加湿器の水は原則として精製水を使用し、最低1週間に1回は水を交換し容器を綺麗に洗浄してください。なお精製水以外を使用する場合には、毎日、水を入れ替えて下さい。 また、回路内に水滴がたまると、吸気時に圧が低下するので、加温・加湿器の使用により、日中の眠気などが再出現した場合、結露のひどい場合には圧を上げる必要がある場合があります。

鼻閉への対応

鼻閉がある場合には加温加湿器の併用が望まれます。鼻閉がある場合には、眠前に点鼻薬の使用も1つの方法です。また、口を開いても問題のないフェイスマスクの使用が良いかもしれません。ただし、重症の鼻閉の場合には、耳鼻咽喉科専門医への受診をされることが薦められます。